研究紹介

薄膜トランジスタの解析と応用

TFTの可能性

薄膜トランジスタとは

本研究室では、薄膜トランジスタを研究対象とします。現在、薄膜トランジスタは、ノートパソコンや携帯電話のディスプレイなどに、広く用いられています。これらのディスプレイ上には、1万個から100万個くらいの薄膜トランジスタが、行列状に配列していて、ひとつひとつが動作して、画像をつくっています。また、最近は、レントゲン撮像機や指紋認識パッドなどにも、用いられはじめています。

薄膜トランジスタの特徴は、文字どおり、薄膜のトランジスタであるということです。どのくらい薄膜かといいますと、厚さ10μ程度です。また、トランジスタは全ての電子回路の基本要素なので、原理的には、薄膜トランジスタでいかなる電子回路をつくることもできます。つまり、薄膜トランジスタによれば、厚さ10μ程度のわずかな構造で、全くジャマにならず、様々な複雑な電子回路をつくることが可能となるのです。最近は、これからのエレクトロニクスの一躍を担う電子デバイスのひとつとして、嘱望されています。

将来は、わずかな構造で電子回路をつくることができるという薄膜トランジスタの特徴を生かして、Electronics Everywhere(どこでも電子回路)を実現することが可能であると考えています。例えば、大型のプラスティックシートに薄膜トランジスタをつくれば、テレビとなり、視るときはポスターのように壁に貼り、しまうときはクルクルと巻いておけます。1枚の紙に薄膜トランジスタをつくれば、本や新聞となり、ページをめくる代わりに、画像が変わってゆきます。服に薄膜トランジスタをつくれば、ウェアラブルコンピュータ(着るコンピュータ)となり、椅子に薄膜トランジスタをつくれば、シッタブルコンピュータ(座るコンピュータ)となります。自動車のフロントガラスに薄膜トランジスタをつくれば、さながらモビルスーツ(古い!?)のコックピットのように、外の景色に自動車の情報を重ねて表示できます。スーパーマーケットで商品のバーコードの代わりに薄膜トランジスタを使えば、レジはウォークスルーでよくなります。そのほか、なんにでも薄膜トランジスタをつくって、どこにでも電子回路がつくれるとなれば、いろいろなことを想像することができます。

また、最先端の技術を用いて積層した薄膜トランジスタをつくれば、原理的には、サイコロほどの大きさに、10億個くらいのトランジスタを集積することができます。これは、これまでに作られたすべての集積回路を、はるかに凌駕する集積度です(ペンティアム4のトランジスタ数は4200万個)。これくらいの集積度になると、脳細胞のような人工知能を構成することも、可能かもしれません(脳細胞の数は150億個)。

アモルファス酸化物半導体とは

ディスプレイには高精細、高解像度が求められています。そこでアモルファスシリコンより電界効果移動度が高いアモルファス酸化物半導体に注目が集まっています。中でもアモルファスIn-Ga-Sn-O(IGZO)を用いた薄膜トランジスタ(Thin film transistor)は次世代ディスプレイのキーデバイスとして世界中で研究されています。

しかし、IGZOにはレアメタルであるインジウムが含まれています。そのため、価格が高価であり、資源の枯渇の心配や、安定供給の不安があります。そこで我々はレアメタルであるインジウムを含まないアモルファス酸化物半導体として、Ga-Sn-O(GTO)に注目いたしました。スズの電子軌道構造は、インジウムと同じであり、電気的な特性も維持できると考えられます。そこで、GTOを用いた薄膜トランジスタの研究開発を行い、IGZOと同等の特性を得ることができました。

研究室の様子1

研究室の様子2

研究室の様子3

研究内容

薄膜トランジスタをはじめ、電子デバイスの研究開発には、特性解析とシミュレータ研究開発が必須です。そこで、本研究室では、薄膜トランジスタの特性解析とシミュレータ研究開発を行います。本研究室の研究成果が、薄膜トランジスタの研究開発の全体を加速し、上述の将来の薄膜トランジスタの姿を実現することになると、思っています。具体的な研究内容は、次のとおりです。

1.酸化物半導体を用いたニューラルネットワークの研究開発

人間の脳には1000億以上ともいわれる神経細胞が存在しています。これらの神経細胞が電気信号を発して情報をやりとりし、高度な情報処理が行われています。この人間が行っている情報処理と等しい機能を持つロボットを実現させるためには人間の脳を再現したデバイスが必要であり、人間の脳に近い集積度かつ小さく、低消費電力な回路が求めらます。上記の要望を満たすハードウェアでのニューラルネットワークの作製を行っています。本研究ではプロセス温度が低く、高集積化が容易である酸化物半導体を用いることにより高集積化された大規模なニューラルネットワークを構築することを目標としてます。今回は酸化物半導体薄膜のみの電圧印加による特性変動を利用しシナプスを形成しました。その後FGPAで設計した回路と繋ぎ、酸化物半導体がニューラルネットワークとして機能することの確認を行っていく予定です。

2.レアメタルフリー酸化物半導体薄膜トランジスタの研究開発

現在、透明アモルファス酸化物半導体(Transparent Amorphous Oxide Semiconductors)薄膜として、IGZOが注目されています。しかしIGZOにはレアメタルであるインジウム(Indium)が含まれているため、高価であり資源枯渇問題があります。そこで、我々はインジウムを使わないGa-Sn-O(GTO)を新たな酸化物半導体として研究を行っています。

3.液晶レンズを用いた画素回路の解像度評価並びに拡大読書器への応用

小さい文字を読むことができない人のために、文字を拡大してディスプレイやスクリーンに表示させる機器を開発する。従来は機器の大画面化と小型化の両立が困難であった。本研究では、液晶レンズを用いて拡大読書器に用いる画素回路の解像度を向上させ、大画面で小型な拡大読書器の開発を目指す。

4.薄膜トランジスタを用いた生体刺激デバイスの研究開発

生体刺激デバイスとは生体や光をセンシングして脳や筋肉を刺激するデバイスである。例えば、ある人の筋電位を読み取り、それに相当するものを外から刺激してリハビリの手助けを行う。他には、失明した患者の網膜に貼り付けて、網膜を刺激し患者に光を取り戻す。薄膜で作るメリットとしては2つあげられる。1つはフレキシブルに作ることができるため、眼球や肌にフィットさせることができる。もう1つは、透明に作ることができ、基板の裏側からでも光を透過できるため、人工網膜では網膜上刺激型をとることができる。

研究室の様子4

研究室の様子5

研究室の様子6

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